ウイスキーとベートーベン ②

調律学校を卒業して 浜松へのりこんだ

初めての 一人暮らしは 市が管理している

勤労青少年寮 という施設だった

 

 

朝食と夕食が まかなわれ

風呂や門限 電気が使用できる時間にいたるまで

様々な制限があった

 

エアコンなどなく 室内の照明は10時に消灯となり

11時になると コンセントの電源も 使えなくなる

その代わり 朝は 6時から 館内に朗々と音楽が流れる

 

部屋には 二段ベッドが フタツあり 

その先に 僅かなスペースがある それだけの設備である

当時の杣にしてみれば まるで 軍隊に来た気分だった

 

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最初の ふた月くらいは 6時に起床し

寮母さんが飼っている犬と 近くの四つ池公園を

散歩がてらに ランニングしていた

 

その頃 朝の音楽は ラジヲ体操だった

まさに 毎朝 毎朝 「あーたーらしーい あさがきたー」

あのボリュームの中で 目が覚めない奴は ヘレンケラーくらいだと思う

 

寮には 様々な職業の人間がいた

地方から 浜松の零細企業に就職した 金の卵たちに

格安で 寝る場所と 食事を 提供している場所だった

 

最初 同室だったのは 自転車屋  そして 電気屋

仲が良かったのは 和菓子屋 電気屋 瓦屋

大橋ピアノの他にも 東洋ピアノの若者もいた

 

ピアノをつくる傍ら 寮に帰ると 新しい趣味に没頭していた

それは アルコール 特に ドイツワインと カクテルに はまっていた

冷蔵庫が無いために いつも ぬるいカクテルだった

 

チンザノのドライベルモットと タンカレのジンを ラッパ飲みして

胃の中で マティーニが出来上がることもあった

 

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ある日 寮母さんが 杣を呼び止めて言った

「杣君 朝 館内にかける音楽で なにか オススメはないかしら?」

 

恐らく 音楽関係の仕事をしているのは ピアノ屋くらいだったので

クラシック音楽のオススメがあれば 紹介して欲しい ということだった

間違っても オフコースの 「言葉にできない」 なんて回答してはいけないのだ

 

 

ベートーベン 交響曲 第7番

 

 

早朝 寝ぼけた脳みそに 陽の刺激をくれ

かつ エネルギーを与えてくれる音楽 

それは 7番だった 

 

翌朝から 他の寮生は知らないが 杣は御機嫌だった

本当は フルトヴェングラーのタクトが よいのだが 当時は持っていなかった

なので カラヤンが 浜松の勤労青少年寮に 毎朝 降りてきてくれた

 

ドランブイと ウイスキーを ステアするだけの ラスティネイル

甘めなのだが 飲みすぎて 二日酔いの朝

ベルリンフィルが ガンガン ガンガン

 

大人へ 社会人へ 周辺の環境は 台風のように変化していった

そして ピアノ作りを通して 職人や 木材に 親しんでいく日々

ウイスキーのような苦さも ドランブイのような甘さも 時間がステアしてくれた

 

ベト7は そんな時代に 毎朝 大音量で響いていた

 

 ∵ 日 々 創 作  ∴ 時 々 仕 事

 

10/29 楽器

「大吉君」

7/17 動画

音の影

7/15 作曲

テノヒラ未来

3/ 26 動画

冬の終わり

2/ 4 作曲

獏飼い注意

1/24 作曲

ゆらゆら

1/12 動画

自我持参