カルピスの夏

杣の暦は 比較的 日本の暦に対応しており

昭和は学徒な日々であり 平成から 社会人になり

平成の年号が そのまま 社会人のキャリアの年数になる

 

平成元年 4月 浜松に行き 手作りピアノの工場に

研究生として採用してもらい 修行に励んでいた

杣を含め7人の職人達は 月に20台程度のピアノを 造っていた

 

大橋ピアノには 夏になると たくさんの中元が届くようで

その中には たくさんのカルピスがあった

そして トイレの横にある 小さな流しに コップとカルピスが 陳列してあった

 

大橋ピアノは 昭和中期の 浜松の工場 そのままの設備で

当然クーラーなど無く 夏などは 窓を開け放し

汗だくになって オガクズにまみれる日々だった

 

夕立などが来ると 社長の号令の元に 

工場の全ての窓を 慌てて閉めにかかり

よけい蒸し暑くなるのだが 大正生まれの職人達は もくもくと作業をしていた

 

今思えば 汗をかいて 夏をやり過ごすというスタイルも

この修行時代に 身につけたものかもしれない

 

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汗をかくと 喉が渇く

なので 流しに行っては カルピスを ガブガブと飲んでいた

腹を壊すくらい ガブガブ飲んで 正露丸のお世話にもなった

 

浜松時代 けっこう たくさんのモノを 飲んでいた

寮では 7つ年上のケンさんと ドイツワインにはまり

近くの酒屋で ウンチクを教わりながら アウスレーゼに酔いしれたものだ

 

なので カルピスと ドイツワインと タンカレなんかは

この時代に 一生分飲んだといっても 過言ではない

 

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工房では それぞれが 自分の作業に没頭しており

視界は 著しく 自分の手元に集中するものだが

聴覚や 嗅覚は 周囲の状況を 把握しているものである

 

7時の方向で 電ノコの音がすれば その音の種類や長さで

あの人が もう あの作業に入った ということは

自分は ちょっと ペースを上げなければ とか・・・

 

また 切断される 木材の匂いで ナニを切っているかも分かってくる

南洋材なんかは アクが強く 花粉症より激しいクシャミの合唱が起き

ブナなんかは 甘い匂いがして ブリッヂの切断は そりゃー楽しみだった

 

そんな中で カルピスは さわやかで すっぱい匂いがした

当たり前だが 工房の中では存在しない 別世界の匂いで

春と秋の 近所の花の匂いの連鎖の 仲介をしてくれていた

 

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今では もう 自分でカルピスを買うこともない

たまに 仕事先で 出される程度である

そして その度に あの暑くて 熱い日々が蘇る

 

大正生まれの職人達も 何人かは亡くなってしまったけれど

彼らと共に カルピスを飲みながら作ったピアノは

まだ 各地に ひっそりと生きていて 音楽を歌っている

 

そうしたピアノが いつまでも 大切にされて

いつまでも 音楽に貢献してもらえることを

願って止まない

 

 ∵ 日 々 創 作  ∴ 時 々 仕 事

 

10/31 動画#73

         「ペンタの大冒険⑱

10/ 1 作曲#115

        「コンダーラ

9/ 3 作曲#114

       「茄子の慟哭

8/20 作曲#113

        「らむね

8/18 動画#72

        「ペンタの大冒険⑰

7/29 作曲#112

        「光合成

6/19 作曲#111

       「??(ハテナッシモ)

6/ 2 作曲#110

       「フェルマータ

5/22 動画#71

        「ペンタの大冒険⑯

5/10 作曲#109

        「震弦地

5/ 9 動画 #70

      「ペンタの大冒険⑮

4/27 録音 #80

        「La Sprezzatura

4/ 3 作曲#108

       「細胞分裂

3/ 4 作曲#107

       「ハレ男

2/10 作曲#106

        「花売娘

1/17 動画#68

       「ペンタの大冒険⑭

1/11 アルバム

   「704

1/ 8 作曲#105

      「ソナチネ