髪型を変えた訳

後輩の平賀君は 

時々 珍妙な発明品を

私に 見せに来る

 

 

「先輩 今度のは傑作です」

『ふうん 本当かね』

「本当ですとも! 今度の作品は 先輩も気に入るはずです!」

 

 

どうも 彼の言葉は信用できない

今までだって 「特許間違いなし!」 とか ハリキリながら

私に見せてくれた その作品のほとんどは・・・

 

 

例えば

 

 

洗濯すれば 何度も使える トイレットペーパー とか

歯茎も鍛えられる 金属製の歯ブラシ とか

燃費がよくなる アクセルストッパー とか

 

 

この中で 私が試したのは

アクセルストッパー だけだったが

なんてことはない

 

 

アクセルが 踏み込めなくなって

ただ スピードが出なくなるだけ というシロモノで

おかげで 仕事に遅刻した 苦い経験がある

今のトヨタになら 売れるかも知れないが・・・

 

 

『で 今回の珍品は何だい?』

「はい ETCメッセンジャーです」

 

 

彼は 説明が長いので 簡単に言うと こんなものである

ETC搭載車に向かって 機械のアンテナを向け

任意のボタンを押すと ETCの機械が喋る というものである

 

 

疑わしかったので 我々は 

私のメルセデス・テポドンに乗り込み

早速 実験を開始した

 

 

「いいですか この1番のボタンを押しますよ」

 

 

すると さっきまで "カードを入れて下さい” と 喋っていた機械から

“ウインカーが点きっぱなしだよ!” という声が流れてきたではないか!

 

 

『おお! これは凄い! 凄いじゃないか平賀君!』

「でしょ? 他にもあるんですよ!」

そう言いながら 彼は 幾つかのボタンを押してくれた

 

 

“運転中は 携帯電話をかけてはいけません”

“てめー どこ見て運転してんだ ばっきゃろー”  

“おい 寝てんのか? おい 起きろ!”

 

 

我々は 深夜の駐車場の 車の中で爆笑し 

早速 他のセリフを インプットするべく部屋に戻り

パソコンから 様々な言葉を ダウンロードした

 

 

そして 寝静まった街へ繰り出した

彼に運転を任せ 私は ミラーシートを貼った後部座席から

信号待ちする車に メッセージを送る という作戦である

 

 

最初に 横に並んだのは くたびれたタクシー運転手である

⑦ “深夜まで 運転 お疲れ様であります!”

すると タクシー運転手は 飛び上がらんばかりに驚いて キョロキョロ

 

 

⑨ “酔っ払いの客って 本当にイヤですよね”

すると 今度は 後部座席に座っていた 乗客が

運転手に向かって なんだか 絡み始めた

 

 

信号が青になったから 

我々は 涼しい顔をして

その場を去ってしまった

 

 

「どうですか! 先輩!」

『エクセレント! うん 実にいい! 次はナンパヴァージョンを試そう!』

「アイアイサー」

 

 

数分後 交差点で 白いBMWの横に止まり

見てみれば 左ハンドルを握っているのは

ワンレグ ボディコンの すこぶる美人ではないか!

 

 

作戦開始

 

 

① “ああ こんな美人に会えるなんて 長生きして良かった”

すると 美人は ビクリとして 何やら 独り言を喋っている

② “驚かせてすいません たった今から あなたのファンになった者です”

美人は しかし 動揺より 困惑な表情で 何やら 早口で独り言

 

 

私は 何を喋ってるのか 聞きたくて

思わず 窓を開け 耳をすませて ボタンを押しまくった

 

 

④ “よかったら 一緒に 電子レンジを買いに行きませんか?”

もう じれったくなったから 最後の手段に出た

⑤ “あなたの隣の車に乗ってる者です! 窓を開けて下さい!”

 

 

すると ワンレグボディコン嬢は 

右を見て そして 左を見て

私と 目が合った

 

 

私は とびきりの悩殺スマイルで 『やあ』 と手を上げた

『脅かして ごめんね! よかったら お茶でもしませんか?』

しかし 美人は 沈黙したままである

 

 

次の瞬間 BMWの 後部座席のスモークなウインドゥが下がって

今時! と思うほど アンティークな リーゼントの兄ちゃんが・・・

「おぅ てめー 何かようか? あ?」

 

 

『平賀 出せ! 飛ばせ!』

「しかし先輩 まだ赤ですよ」

『かまわん! 罰金より 命の方が大切だ! いいから飛ばせ!』

 

 

猛烈ダッシュした テポドンから

私は 追走してくる 白いBMWに向かって ボタンを押した

⑫ “すみません すみません”

 

 

しかし BMWは パッシングとクラクションで

更に 激しく 煽ってくるではないか!

すると 平賀君が 運転席から わめきだした

 

 

「先輩! 10番以上の番号を押したらダメですよ!」

『なんでだ! 12番は “すみません”だったろ?』

「いや インプットしたのは 10番までです! 10番以上は僕の設定のままです!」

 

 

ワケが分からなかったので

私は 自分の車に向かって ⑫を押してみた

“やい! くされげどーが! とっととくたばれ!”

 

 

我々は 8回の信号無視と

スピード違反をしながら

命からがら 逃げ切った

 

 

それ以来 私は 髪型を大きく変え

電車で仕事に行くことにしている

もちろん 駐車場の愛車には すっぽりとカバーをかぶせるのを忘れない

 

 

 

 

  

 ∵ 日 々 創 作  ∴ 時 々 仕 事

 

7/17 動画

音の影

7/15 作曲

テノヒラ未来

3/ 26 動画

冬の終わり

2/ 4 作曲

獏飼い注意

1/24 作曲

ゆらゆら

1/12 動画

自我持参