安達太良の垂訓

仙台でのコンサートも無事に終わり

東北道を一路 南下しながら

ふと もよおした…

 

私のセンサーは 黄門様の近くにあるせいか

もよおしてから 排泄リミットまで

ウルトラマンが地球にいられるより時間より短い

 

しかし サービスエリアなんてものは

私の下腹部の都合に合わせて

設置されてるハズもない…

 

私が今までに支払った高速料金の総額たるや

日本道路公団の職員の一人くらいの年収を

はるかに越えるはずなのに この試練はいかに…

 

などと思考を下半身から 逸らしながら

ふと見上げれば 安達太良サービスエリアまで

わずか2kmの位置におり 大慌てでウインカーを出す

 

サービスエリアの駐車場は 私にだけ意地悪で

トイレからは少し離れた場所に駐車せざるを得ず

まあ 最後の渾身の力を込め 車を飛び出した

 

その時の私のダッシュ力たるや 相当なもので

カール・ルイスに及ばずとも勝らないスピードで

U-12のオリンピックなら金メダル確実なものだった

 

とにもかくにも 空室の個室になだれこみ

冷静かつ迅速に 目にもとまらぬ早業で

ベルトを解除し ズボンをおろし腰掛けた

 

神に感謝したさ

 

確認を怠っていたが 厠紙もちゃんと足りており

百分の一秒を争う戦いに勝利できたのである

もう私を苛むものは 全て水没したのである!

 

人間というものは 取り入れ 取り出す

そこに本能に約束された恍惚を感じるものである

その時の私が まさに動物に近い恍惚を得ていた

 

 

その時 事件は起こった

 

 

このシチュエーションを もう一度確認しておこう

場所は安達太良SAの便器の上

時は うららかな秋の正午前である

 

もはや 何ひとつ焦る理由のないオジサンが

TOTOの上に 安堵しているひとときである

心も体も弛緩しきった 1㎡の密室である

 

そこに天の声が 降り注いだ

正確に描写するなら アナウンスがかかったのである

それまでのBGMが止み 女性の声が聴こえてきたのである

 

「かやのきやまさま かやのきやまさま

 いらっしゃいましたら 至急サービスカウンターまで

 お越し下さい! 繰り返します! かやのきやまさま…」

 

は? おれ? おれのこと呼んでる?

私は一瞬パニクった

せっかく危機を乗り越えた直後だというのに…

 

何故 俺が ここにいることが分かったのだろう

誰が何の目的で アナウンスなどで

呼び出そうとしているのだろうか

 

この時 私の頭を巡っていった推測を

ここに正直に組み立て直してみよう

私の頭のCPUは Macに及ばずとも勝らない

 

誰か悪友が 例えばケンタみたいな奴が

俺を見かけて アナウンスで呼び出して

ウヒャウヒャ笑っているに違いない…

 

しかし そんな悪戯する奴が

偶然 こんなピンポイントで

遭遇する確率は どれほどのものだろう

 

あるいはあれか 公安か

俺を尾行してきて 突然消えたから

慌てて所在を確認しようとしているのだな

 

しかし 車は駐車場にあるわけだし

わざわざ尾行しているのがバレるような

愚かな真似を 優秀な公安がやるわけない…

 

あ もしかして さっき運転中に来た電話

出なかったから 相手が先回りして

SAに電話して 通話しようとしているのか?

 

しかし 私がここに立ち寄ることになったのは

前日の晩酌の多寡と 大腸の繊毛運動に起因するわけで

それを想定して この場所と時間を突き止める確率なぞ…

 

 

そんな様々な妄想に明け暮れていると 

再び天の声が降り注いできた

心なしか先ほどより 声に緊張が加味している

 

「朝霞市からお越しの かやのきやまさま (×2)

 いらっしゃいましたら 大至急 サービスカウンターまで

 お越し下さい! 繰り返します 朝霞市から…(以下同文)」

 

おいおい 朝霞在住まで知ってる奴の悪戯か?

いったい どこのドイツだ?

さっきは至急だったのに 今度は大至急だぞ?

 

陰謀説に支配されていた私の脳は

ほんの少し これはもっと 違う要因なのではと

思い返し オモムロに厠紙で…(以下削除)

 

大型トイレを出て 売店など入っている建物に行き

はて サービスカウンターは どこだろうと彷徨い

なんとか辿り着き 緊張しながら 口を開いた

 

『あの…アナウンスで呼ばれた加屋野と申しますが』

「あ!かやのきやまさんですか?よかった!」

『はあ 加屋野もくざんと申しますが…いったいどのような…』

 

しかし 道路公団の指定した

あまり似合っていない制服を着せられたおばちゃんが

手にしていた物を見て ぶったまげた

 

それは 私の免許証だった!

は? 何故 私の免許証がここにあるのだ?

だって だって 免許証はいつも財布の中に…

 

私は慌てて 財布を開いてみると… 無い!

財布はおろか 交通関係のカードが無くなっている!

スリか? いつやられたんだ? 

 

「本当によかったです! 免許が落ちていたようで」

『ぬぉお あ ありがとうございます!』

「念のために 生年月日と御住所を教えてください」

 

おばちゃんは 突然トランプゲームでもするかのように

免許証を隠しながら 私の諳んじるセリフを聴いて

「確かにかやのさまです! どうぞ」

 

おい 写真見れば本人であることくらい分かるじゃろ!

などとツッコミを入れることができなくらい

私は テンパリながらペコペコ感謝しまくった

 

普段 数年に1回も見ることのない自分の免許証を

しげしげと見つめながら いったい いつどうやって

財布の中から脱走したのか 脳内のVTRを逆再生してみた

 

 

思い当たることがあった

普段は財布をポケットに入れているのに

便所への猛ダッシュの時に 私は手に持っていたのだ

 

なぜならば 前のサービスエリアでガソリンを補給した時

運転席に座っていたので 財布はドアポケットに入れ

そのまま 駐車場から 手に持ったままカールルイスをしていたのだ…

 

私の美しいランニングフォームは

両手を大きく振るので 恐らく その時

免許証は不本意ながら 空中に舞ったのだろう…

 

しかし 財布のその場所には 他にもカードがあったはず…

えーと なんだっけ… ETCカードは車の中だし…

あ スイカもあったはずだ! けど名前書いてないからな…

 

免許証だけでも戻ってきたのだ

もう十分ではないか

欲を出してはいけない! 

 

と 感動と落胆の入り交じった気分で売店の前を通ってみると

若いアルバイト店員達が 不思議そうに緑のカードを見つめている

あ! 俺のスイカだ! きっと俺のスイカだ!

 

そんなわけで 拾われたスイカも ペコペコしながらもらい

気がついてみれば とんだ大惨事にも関わらず

無傷で解決し 全てが元に戻っていた

 

あまりにシュールな出来事だったので

メンタルの弱い私は 再び個室の人となり

残りの排泄をしながら 心を整えた

 

神に感謝したさ

 

感謝を具現化する為に

思い当たる限りの人々へ土産を買い 

あわや破産しかけた

 

しかし私は この貴重な経験を

安達太良の垂訓と名付け

生涯忘れないようと心に誓うのであった

 ∵ 日 々 創 作  ∴ 時 々 仕 事

 

7/17 動画

音の影

7/15 作曲

テノヒラ未来

3/ 26 動画

冬の終わり

2/ 4 作曲

獏飼い注意

1/24 作曲

ゆらゆら

1/12 動画

自我持参