短歌に親しむ ーツチノコ殺人事件 (現代短歌論集からの抜粋)
竹藪に 穴を掘ったり 戻したり ツチノコ見てた 人殺しかな
ツチノコを 捉えてみれば ただの蛇 腹の中には 赤子の遺体
たけのこを ツチノコと呼ぶ うちの母 そろそろ行かめ 姥捨の山
ー解説ー
人知れず竹藪で誰かが穴を掘っています。埋め戻しているのでタケノコ掘りではなさそうです。その様子をツチノコが藪の陰からじっと見ています。どうやら殺人事件の事後処理のようでした。この事件、仮に容疑者を特定出来たとしても、目撃証言をしてくれるこのツチノコを探し出す事の方が、大変困難でしょう。
ツチノコ発見の知らせは数あれど、本物が捕獲された事は一度もありませんでした。今回もそのようです。ではこの蛇、一体どうなっているのでしょうか。思い切ってお腹を開けて見ました。するとそこには丸呑みにされた、人の赤ん坊の姿がありました!
年老いた母はとうとう、筍を見てそれをツチノコだと思うようになってしまいました。介護に疲れたその息子も、もうすっかりいい歳です。そろそろ連れて行くか、姥捨山に。息子の心中に穢れなき殺意がよぎります。老人が老人を介護する現代の悲劇の序章です。 (以上抜粋)