それぞれのきっかけ

「どうして調律師になったんですか?」

調律師なら度々投げかけられる質問だと思います。

それだけ特殊な職種に映っているのかも知れません。

「耳がよろしいんでしょうね」とか「音感が素晴らしいんでしょうね」

などと言われると、笑顔がひきつっていき「ごめんなさい」と言って

その場を逃げ出したくなってしまいます。(すこぶるオンチなのに、、、)

 

と、自分の話はさておき、これはある調律屋がこの道を志すきっかけとなった

嘘のような話です。今や彼は、日ピの会員となり独立して調律業を営んでいますが

そのきっかけを聞かされた時には信じることはできませんでした。

そのエピソードを、彼の了解の元に、ここに紹介させていただきます。

 

 ・・・・・・・・・・・

 

小学校3年生の頃、僕はなんでも信じるオバカだった。

今こんなに疑り深くなったのは、もしかしたらこの時代の反動なのかも知れない。

僕が育った湖が望める団地には、同じ世代の悪ガキがたくさん住んでいた。

ある日、隣の階段の、ひとつ年上のやっちゃんは

ニヤニヤしながらこんなことを言った。

 

「お前ら知ってるか?昨日テレビでやってたんだけどさ

 コンペイトウってのは星の種で、土に埋めとくと

 いつか星の木が生えてきて、星が沢山できるんだってよ!」

 

あの時、何故「ああ、そうなのか」と何の疑いもしなかったのか

今でも疑問である。それくらい信じやすく、つまりはオバカだったのだろう。

 

早速、母さんと買い物に行った時にコンペイトウを買ってもらった。

その時めずらしく母さんが「もっと欲しいモノがあったら言いなさい」と

いつもと反対のことを言ったのが、子供ながらにも

不思議でたまらなかったことを覚えている。

けれど、僕はもうコンペイトウのことで頭がいっぱいになっていて

団地に帰ると早速シャベルでコンペイトウを芝生に埋めた。

黄色いジョーロで水もやった。

 

次の日、4階に住んでるフッサンが

「やっちゃんの話本気にしたんだろう、バカだなあ、お前は」と

みんなの前でバカしにした。

登校班の連中に、さんざんからかわれながら学校まで行った。

5年生だった姉は、じっと黙ったままで、僕の見方にも敵にもならなかった。

それが、悔しかった。それが、悲しかった。

 

それでも、僕は誰も見ていない時間に、そっとコンペイトウに水をやり続けた。

そして、やがて夏休みがやってきた。

 

 

ラジオ体操の帰り道、そっとコンペイトウを埋めたところを掘り返してみた。

しかし、そこには何も無くなっていた。家に帰ると、母さんが泣いていた。

子供ながらに親達の空気は感じていた。そんな家の中が、何だか大嫌いだった

朝食を食べ終わると、カブト虫を獲りに行ったり、野球をしたり

太陽が消えるまで夢中になって外で遊んだ。

 

その夜のテレビで、新しい星が発見されたというニュースをやっていた。

僕は、あのコンペイトウが遂に星になったんだと本気で思った。

どうして、そんなことを信じようとしたのか分からないが

父さんと母さんに得意になって、そのいきさつを説明した。

父さんも母さんも、それぞれ、それなりに喜んでくれた。

それなりに、それぞれ、「よかったね、すごいね」と言ってくれた。

 

僕はベランダへ出て、夜空を見上げながら、その星を探した。

僕が埋めた星を探した。網戸にはたくさんの虫が集まってきて

明かりを目指してへばりついていた。でも僕は中へ入りたくなかった。

 

 

父さんと二人で海に行った。

姉さんと母さんが来なかったのが不思議だったが、嬉しくてずっと唄を歌っていた。

クラスと名前の入った紺の海水パンツをはいて、僕は磯でたくさんのモノを捕まえた。

磯ギンチャクをからかった。ヤドカリをバケツに入れた。

すばしっこいカニも、待ち伏せ作戦で捕まえた。

父さんは、その度に「よく捕まえたなあ」と感心してくれた。僕は得意だった。

 

空が赤くなってきた頃「家に持って帰ったら死んじゃうから、海に逃がしてあげなさい」

と父さんが言った。せっかく捕まえたのに、イヤだった。

でも、父さんは「可愛そうだから」とバケツを海に空けてしまった。

僕は必死にピンク色のヒトデだけを捕まえて、そっとポケットにしまった。

どうしても、母さんや姉さんに見せびらかしたかったのだ。

 

帰りの車の中で、僕は寝てしまった。目が覚めると、団地の前の駐車場だった。

父さんは寝起きの僕を確かめるように、顔をのぞきこんでから言った。

「お前は男の子だから、母さんのそばにずっといるんだよ。

 父さんは、お姉ちゃんと引っ越すことになったからね」

 

その夜のテレビで、新しく発見された星が行方不明になったと大騒ぎしていた。

僕はベランダに出て、ポケットから干からびたヒトデを取り出して

あのコンペイトウが星になって、それからヒトデになって帰ってきたんだ、と思った。

やっぱりコンペイトウは星になったんだと、すごく嬉しかった。

でも、そのことを話す相手は、誰もいなかった。

 

 

2学期になって、僕のミョウジは変わっていた。友達はかっこいいと言ってくれた。

秋の運動会の親子競争で、僕だけが母さんと走った。ビリだった。

そうやって、何もかもが変わっていった。

 

 

「でね、高三のある夏の日にさ、机の上に干からびたヒトデが置いてあったんだよ。

で、母さんに聞いたら、ピアノの中にあったらしくて

調律師さんが出しといてくれたんだってさ。

でもね、新しい父さんと一緒に来た義姉キが持ってきたピアノなのに

どうしてあのヒトデが入っていたのか分かんないんだけどさ

その時決めたんだ。調律師になろうって。」

彼はそう言って調律工具カバンを開けた。

そこには、汚い布にくるまれた紅色の小さなヒトデがあった。

そして淋しそうに笑いながら「なんてね」と言った。

 

そんな彼が作詞作曲した歌を御紹介させていただきます。

 

 

 

 

「おっちょこちょいな北極星」

 

 

ある静かな満月の夜

おっちょこちょいのお星様が

居眠りして 海の中へ

うっかり落ちてしまいました

 

真っ暗な海の底で

ヒトデになったお星様は

とめどなく涙が溢れ

海はしょっぱくなりました

 

そこへ魚が集まってきて

どうしたのかと訊ねれば

お日様が輝く前に空へ帰らなければ

僕は泡になってしまうだろう

そう言いながら泣いてました

 

それを聞いた長老カメが

北極まで連れて行ってくれて

大きなクジラさんに

一緒に頼んでくれました

 

クジラはヒトデを飲み込んで

天高く潮を吹きました

するとヒトデは夜空のてっぺんで

星に戻れました

みんなにアリガトウが見えるように

一生懸命光りました

 

それを見ていたお月様は

もう二度と落ちないように

北の空のど真ん中で

じっとしているように言いました

 

 ∵ 日 々 創 作  ∴ 時 々 仕 事

 

7/17 動画

音の影

7/15 作曲

テノヒラ未来

3/ 26 動画

冬の終わり

2/ 4 作曲

獏飼い注意

1/24 作曲

ゆらゆら

1/12 動画

自我持参